食物アレルギー
食物アレルギー
食物アレルギーとは(定義)
私たちが、何かを食べたとき体に何らかの症状がでることがあります。これを体に好ましくない反応と呼びましょう。この体に好ましくない反応には、食物アレルギーも含めて大きく分けて4つあります。
体に好ましくない反応
1. | 食中毒 |
2. | 食物アレルギー |
3. | 食物不耐症 |
4. | 薬理活性物質(仮性アレルギー) |
食中毒は、食品に付着あるいは、食品内で増殖したウイルスや細菌、毒素が胃や腸から感染あるいはそこで増殖して下痢、嘔吐、発熱などの症状をおこす病気です。サルモネラ菌、O157大腸菌、フグ毒などが原因になります。
食物不耐症の代表的なものは乳糖不耐症です。牛乳中に含まれている乳糖(牛乳の甘みになる二糖類です)を分解する消化酵素の量は、人種、年齢により異なります。このため乳糖分解酵素の少ない人は、牛乳を多く摂取すると消化できずに下痢をすることがあります。乳糖不耐症は、牛乳アレルギーとの鑑別が必要になることがあるので、乳児、小児では注意が必要です。
薬理活性物質は、食品中に含まれるヒスタミン、セロトニン、アセチルコリンなどが皮膚の痒み、発赤、刺激感、腹痛などをひきおこすものです。ほうれんそう、トマト、とうもろこしに含まれるヒスタミン、鮮度のおちた魚のヒスタミン、トマト、バナナ、キウイフルーツ、パイナップルのセロトニン、なす、トマト、タケノコ、里芋、ヤマトイモ、クワイのアセチルコリン、じゃがいも、トマトのニコチン、トマト、キュウリ、じゃがいも、イチゴ、リンゴのサリチル酸化合物によって皮膚のかゆみ、じんましん、刺激感、腹痛などが起こることがあります。
食物アレルギーは、食物がアレルゲンとなって免疫反応によって体に症状がでる病気です。食物を摂取してから症状が出るまでの時間と抗原特異的IgEの関与の有無で分類することが多いです。原因食物を摂取してから、おおよそ2時間以内に発症するのが、即時型アレルギー反応による食物アレルギーで、アレルゲン特異的IgE抗体が関与していることが多くあり次のような症状があります。
即時型食物アレルギー
即時型食物アレルギーの症状 | ||
1.皮膚の症状 | かゆみ、じんま疹、赤み | |
2.目の症状 | 結膜の充血、かゆみ、まぶたの腫れ | |
3.口、のどの症状 | 口・のどの中の違和感、いがいが感、舌・唇の腫れ | |
4.鼻の症状 |
くしゃみ、鼻汁、鼻づまり | |
5.呼吸器の症状 | ★ | 声がかすれる、犬が吠えるような咳、のどが締め付けられる感じ、咳、息が苦しい、ゼーゼー・ヒューヒュする、低酸素血症 |
6.消化器の症状 | ★ | 腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、 |
7.循環器の症状 | ★ | 頻脈、脈が触れにくい、脈が不規則、手足が冷たい、唇や爪が青白い、血圧低下 |
8.神経の症状 | ★ | 元気がない、ぐったり、意識がもうろう、不機嫌、尿や便を漏らす |
9.アナフィラキシー | ★ | 緊急性の高いアレルギー症状を含んで複数の臓器に症状がある状態 |
10。アナフィラキシーショック | ★ | 血圧低下、意識障害がある状態 |
★:緊急性の高いアレルギー症状です。エピペンの適応です。
原因食物を摂取してから2時間以上してから症状がでる食物アレルギーには、食物アレルギーが関与する乳児アトピー性皮膚炎と新生児・乳児消化管アレルギーがあります。
食物アレルギーが関与する乳児アトピー性皮膚炎
乳児のアトピー性皮膚炎では、原因食物を摂取してから数時間から半日ぐらいして湿疹が悪化する場合があります。食物との関連性を証明するのが容易ではない場合が多いので、疑わしいから除去をしておくというのはよくありません。また、アトピー性皮膚炎に食物アレルギーが関与していたとしても、そうでなくても、スキンケアと軟膏の塗布が適切におこなわれていないために皮疹が改善していない場合が多いので、まずは、スキンケアと軟膏塗布を徹底してから原因食物の特定をおこなっていくことが大切になります。そして、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎に関与するのは、5歳ぐらいまでです。
。
新生児・乳児消化管アレルギー
新生児期早期から1歳までがほとんどで、嘔吐、下痢、血便があり体重増加不良になることがあります。即時型食物アレルギーとは免疫の仕組みが異なり、IgE 抗体は陽性とならないことが多いです。原因食物アレルゲンとしては牛乳が多数を占めています。血液検査が診断の参考にならないため、症状と食物経口負荷試験で診断をします。
遅発型IgE依存性食物アレルギー
食物の摂取から数時間してから即時型食物アレルギーと同様の皮膚症状、呼吸器症状、全身症症状がでることがあります。
現在まで、牛肉・豚肉アレルギーでマダニ咬傷と関係するものと納豆アレルギーでクラゲ刺傷と関係するものが報告されています。
即時型食物アレルギーの診断
食物アレルギーの診断は、次のステップで進めていきます
Step 1 問診 アレルギー症状がでたときのことを詳しく伺います。いつ、どのような状況で、食べたもの、食べた量、どのくらいしてから症状がでたか、どのような症状がでたかを教えて下さい。
Step 2 検査 診断を補助する検査です。原因食物と結合する特異的IgE 抗体を証明するたもの血液検査と皮膚テストがあります。
Step 3 食物経口負荷試験 確定診断のための検査です。疑わしい食物を実際に食べてみてアレルギー症状が出るか調べる検査です。問診での明らかな症状と血液検査で診断できる場合は経口負荷試験を行わない場合もあります。
食物アレルギーの原因食物
即時型食物アレルギーをおこす原因食物は、年齢によって異なります。日本小児アレルギー学会食物アレルギー診療ガイドライン2012によれば、表のようになります。
0歳 | 1歳 | 2-3歳 | 4-6歳 | 7-19歳 | 20歳以上 | |
1位 | 鶏卵 | 鶏卵 | 鶏卵 | 鶏卵 | 甲殻類 | 甲殻類 |
2位 | 牛乳 | 牛乳 | 牛乳 | 牛乳 | 鶏卵 | 小麦 |
3位 | 小麦 | 小麦 | 小麦 | 甲殻類 | ソバ | 果物 |
4位 | 魚卵 | ピーナツ | 果物 | 小麦 | 魚類 | |
5位 | 甲殻類 果物 | ピーナツ | 果物 | ソバ |
乳幼児期は、圧倒的に鶏卵(卵白)、牛乳、小麦のアレルギーが多く、学童期からは、甲殻類、ソバ、果物が増加します。年齢が高くなると、花粉・食物アレルギー症候群が増加するため、果物アレルギーが多くなってきます。
食物アレルギーのある人の頻度
食物アレルギーのある人は、圧倒的に乳幼児のお子さんです。0-1歳では7%前後(14人に一人の割合い)です(東京都の保育所での調査)。食物アレルギーは、年齢とともに自然に改善していくので、小学校入学までにおおよそ9割は改善します。しかし、その上の年齢(小中高校生)も、頻度としては、4.5%あります(文部科学省、平成25年度の調査)。
乳幼児期には、鶏卵、乳、小麦のアレルギーが多いですが、多くが自然治癒していきます。残念ながら、一部の人は、小学生、中学生でも残る人がいることも事実です。小学生以上で多いアレルギーである、甲殻類、ナッツ、ソバアレルギーは、成人でも多く、一旦アレルギーになると自然治癒しにくいアレルギーであると言えます。
即時型食物アレルギーには、上記の一般的な症状のでてくるタイプの他に、ちょっと変わった機序で症状がでるタイプがあります。口腔アレルギー症候群(花粉-食物アレルギー症候群)と食物依存性運動誘発アナフィラキシーの2つがあります。
クリニックでの食物アレルギーの治療方針
基本的な方針は、日本小児アレルギー学会の食物アレルギー診療ガイドライン2016に準拠しています。
原則は、「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」です。これを整理すると、次の①~⑥のことについて管理していきます。
①正しい診断に基づいた除去
食べると症状が誘発される食物だけを除去します。血液検査で特異IgE抗体が陽性であったことだけで安易に除去をしないことです。はっきりしないときは、食物経口負荷試験を実施します。
②症状を誘発しない範囲のアレルゲン摂取
原因食物は安全のために除去することが原則です。学校・保育施設の給食等では、除去食になります。しかし、将来耐性獲得が期待できる食物については、症状を誘発しない範囲の量で摂取するように指導をしていきます。
③安全の確保
食事や日常での誤食の防止。その他対応方法を決めていきます。
④必要な栄養摂取
除去食に伴う栄養不足にならないように、代替え食等を検討していきます。
⑤QOLの向上
本人・家族の生活の質(QOL)が損なわれないように配慮していきます。
⑥誘発症状への対応
誤食時の症状に対応できるように準備をしていきます。